東芝デジタルエンジニアリング株式会社

事例紹介

地域包括ケアシステム導入事例 「うすき石仏ねっと運営協議会様」

行政イントラネットを活用して地域包括ケアシステムと連携
医療・介護関連施設の輪を広げ、安心・安全な医療・介護サービスのさらなる向上を目指す

地域包括ケアシステム導入事例 「うすき石仏ねっと運営協議会様」

高齢化が進み医療・介護を支える人材が不足しつつあることを危惧した大分県臼杵市医師会が中心となり、臼杵市の医療・介護を守るために構築した 「うすき石仏ねっと」。
地域包括ケアシステムと連携することにより業務効率化と利便性向上を実現し、さらに連携アプリの機能強化を図ることで安心・安全な医療・介護サービスのさらなる向上を目指している。

課題

高齢化が進み、医療・介護を支える人材が不足しつつあることが危惧される中、無駄の少ない、安心・安全な医療・介護サービスの構築が急がれていた。

解決

  • 「うすき石仏ねっと」を構築することにより、これまでの複数の医療機関や調剤薬局から個別に診察や処方をしてもらっていた場合と比べ、他病院の検査結果や処方薬が一目で分かるため、病気の早期発見、重病化予防の実現が可能になった
  • 情報を即座に確認できたり時系列での参照ができることにより、救急時の現場滞在時間の短縮ならびに重症化を防ぐことができ、医療費削減にもつながっている

行政イントラネットを活用して地域包括ケアシステムと連携、医療・介護関連施設の輪を広げ、安心・安全な医療・介護サービスのさらなる向上を目指す

「うすき石仏ねっと(以下「石仏ねっと」という)」とは、「うすき石仏ねっと運営協議会」がケーブルネットワークを活用し整備した行政イントラネットで各施設と閉域で接続し、病院、診療所、歯科診療所、訪問看護ステーション、調剤薬局、介護施設、居宅介護支援事業所、消防署などの参加施設の間で対象者の病気、薬、検査結果などの情報を共有するシステムである。

また、子育て支援アプリ(ちあほっと by 母子モ)ともつながっているため、保護者は当該アプリを介し石仏ねっとが保有する予防接種情報と乳幼児健診結果も確認できる仕様となっている。現在、臼杵市では、6歳以下の子供及び、保護者の加入率は100%となっており、保護者も安心して子育てができる仕組みとなっている。

石仏カード(地域共通IDカード)
石仏カード(地域共通ID)
うすき石仏ねっと全体像
うすき石仏ねっと全体像

導入の背景

「地域住民のために良いものをつくり、広げていきたい」という強い思いから臼杵市医師会立コスモス病院 舛友院長と小野情報管理センター長が事態を打開すべく自ら関係各所を回る中で、さまざまな人たちが2人の思いに共感し、輪が広がっていった。

平成24年度に共同の勉強会が開催されるなど、臼杵市医師会と当市の連携が始まった。また、同年度に厚生労働省の「在宅医療連携拠点事業」の受託が決まり、市内の医療・介護関係者が集う機会が増え、訪問看護や調剤薬局、介護施設が石仏ねっとに参加するようになった。

舛友院長は、「医療現場についてはだんだんと情報化が進んできたが、医師、歯科医師、薬剤師、介護従事者、また行政などを巻き込んだ、本当の意味で使われるシステム作りが必要だった」と語る。

臼杵市医師会立コスモス病院 院長 舛友一洋氏
臼杵市医師会立コスモス病院 
院長 舛友 一洋氏

導入の経緯

石仏ねっとは、高齢化が進み医療・介護を支える人材が不足しつつあることを危惧した臼杵市医師会が、平成15年3月に市内の5つの医療機関において検査データを閲覧する実証実験から始め、平成20年3月からは画像データを閲覧できるように整備し運営していた。

平成24年度、厚生労働省のモデル事業「在宅医療連携拠点事業」を受け、「プロジェクトZ」(Zは在宅の頭文字)というチームが設置され、市内の医療・介護関係者が集う機会が増えたことから起因し、平成25年3月には訪問看護事業所、平成26年10月には調剤薬局などともつながるようになり、平成27年4月から臼杵市医師会、臼杵市などを構成員とする「うすき石仏ねっと運営協議会」(以下「運営協議会」という)が発足し、運営協議会が石仏ねっとを運営していくことになった。

また、平成27年7月には歯科医院、同年10月には消防署、平成28年1月には居宅介護支援事業所ともつながるようになった。さらに、平成29年度には総務省クラウド型EHR高度化事業によりクラウド型サーバーを整備し、大分市、津久見市や豊後高田市の医療機関とも連携を開始し、また、妊娠期から子育て期の母子の情報とも連携がとれるよう子育て支援アプリとの連携も可能となった。

地域包括ケア情報連携システム ネットワーク概念図
地域包括ケア情報連携システム ネットワーク概念図
地域包括ケア情報連携システム 全体概念図
地域包括ケア情報連携システム 全体概念図

導入のポイント

  • 安心・安全なシステム
    「石仏カードには保有者個別のIDが、参加施設(読み取り側)には施設個別のIDが割り振られており、それらが関連付けられることで、情報の確認や更新・蓄積が可能となっている。なお、石仏カードには保有者ID以外の情報は登録されていないため、万一紛失してもそれだけで医療情報が漏えいすることはない。」と小野情報管理センター長は語る。
  • 緊急時の活用
    「119番通報の緊急時には、傷病者が石仏ねっとに加入していれば、石仏カードがなくても消防署の通信指令室で氏名、生年月日などにより検索し、専用の画面で閲覧できる仕組みとなっている。専用の画面では低血糖、出血傾向などの緊急性が高い情報は強調され、既往歴、かかりつけ医療機関などを短時間で確認できる構成となっている。このため、救急隊員は現場に到着する前に処置の準備、搬送先の選定などを行うことが出来るため適切かつ迅速な初期対応に役立っている。」と舛友院長。
  • 災害対策
    「地震などの大型災害時においては、住民の健康や命を守るため、医療や援助が必要な方の情報を行政などと即座に共有できるよう災害時モードを備え、病院、市役所、消防署(通信指令室)との連携は石仏カード無しで可能となる。薬の情報や、災害時要援護者の情報、遺体検案のための情報を閲覧できる」と舛友院長は語る。
臼杵市医師会立情報管理センター センター長 小野清史氏
臼杵市医師会立情報管理センター 
センター長 小野 清史氏

導入の効果

  • (1)日頃の活用例(早期発見・重症化予防)

    複数の医療機関を受診し、薬も複数の調剤薬局から出されていた方の実例。

    石仏ねっとにより血液検査の結果や他の病院での処方薬も確認できるため、主治医が血液検査の変化から低カリウム症に早い段階で気付き、処方薬からカリウムを体外に放出する漢方薬が影響していることを疑った。本人からの聞き取りにより、足のつりが気になり、その漢方薬には足のつりに対して効果があったため自身の判断で指示された量より多く服用していたことがわかった。
    これらの結果を薬剤師と共有し、本人に対し服薬指導(適切な服薬方法)した結果、血液検査の結果が正常値に改善された。

  • (2)緊急時の活用例(現場滞在時間の短縮)

    高齢男性が意識を失って倒れたとの通報があった実例。

    救急車の出動と同時に、石仏ねっとにより病名などを確認すると、糖尿病の治療中であることがわかり、低血糖による意識障害(糖尿病の治療中は血糖値が下がり、意識を失う場合がある。)が疑われた。そのため、現場に到着する前に血糖値の測定と低血糖の処置としてブドウ糖の投与を準備した。現場に到着し、意識を失った高齢男性の血糖値を測定すると、低血糖の状態であったため準備していたブドウ糖の投与を行い、迅速に病院に搬送することができた。

    病院の医師からは、「低血糖の状態が続くと脳に損傷を与えるため、1秒でも早いブドウ糖の投与が必要であり、現場に到着する前に準備でき、適切かつ迅速な初期対応ができたことは患者さんにとって大変良いことだ。」と評価された。

  • (3)臼杵市糖尿病等生活習慣病対策ネットワーク(重症化予防)

    平成22年度から大分県中部保健所、当市、臼杵市医師会、臼杵市医師会立病院コスモス病院(中核病院)、協会けんぽ大分県支部などが連携し、「臼杵市糖尿病等生活習慣病対策ネットワーク」を構築している。この取組みは、市民に対して講演会などを通じて糖尿病についての普及啓発を図ることに加えて、保健指導の中でHbA1cの指標を捉えて、早期に専門医につなげて早期診断とその後の介入を行っていくことで透析などの重症化を防ぐことを目的としている。

    石仏ねっとの糖尿病連携手帳(複数の医療機関で受ける血液検査などの検査結果を時系列でみることができる機能)の活用で継続的な観察ができ、介入の効果を適切に確認できることに加えて、この取組みに関連する医療費分析を毎年度重ねており、実施後5年を経て重症化を防ぐことができている傾向が顕著に現れ始めている。この取組みにより、透析患者を減らすことができれば、1人当たり年間600万円の医療費軽減効果となる。

  • (4)安心・安全なまちづくり

    安心・安全な医療・介護サービスには、他科・他職種などとの連携が求められる。例えば、腎機能の低下した患者に対し、造影剤を使って肝臓がんの検査をする場合、肝臓担当の先生は造影剤による腎機能の影響も留意する必要があり、腎臓担当の先生との連携が生じる。万が一、この連携がない場合は、患者の有する能力を低下させてしまうため安全な医療サービスとは言えず、患者・家族にとっては安心とは言えない医療サービスだ。「安心・安全」は、それぞれの専門家が必要な情報を確認し、連携することにより生まれるものである。

    石仏ねっとは必要な情報を提供し、連携するきっかけを与えている。加入者及び参加施設が増えることは、「安心・安全」となる医療・介護サービスの連携体制の強化につながり、ひいては安心・安全なまちづくりにつながっている。

今後の展開

  • (1)市外医療機関との連携
    現在、連携している市外の医療機関は一部だが、これを拡げていく。
  • (2)学校健診との連携
    学校健診結果とも連携し、生涯の健診結果を時系列で管理・活用していく。
  • (3)スマートフォンでの閲覧
    検査結果、処方薬などを加入者のスマートフォンで閲覧できるようにする。
  • (4)マイナンバーカードへの対応
    全国診療情報プラットホームとの連携もできるように準備を進める。
(現在の主な機能)

地域包括ケアシステムに対する東芝デジタルエンジニアリング取り組み

東芝デジタルエンジニアリングでは、うすき石仏ねっと様から委託を受け、地域包括ケアシステムのシステム開発、保守、サポート作業を行っています。
また本システムでの経験を活かし、大分市において「おおいた医療ネット」の導入に参画し、2024年7月から稼働を開始しています。

うすき石仏ねっと様 概要図
  • 他施設・多職種間の情報連携のため、必要な情報をできるだけ人手を掛けずに標準化に沿って収集し、表示・閲覧するシステム
  • 地域全員参加型の医療・介護情報の共有システム