東芝デジタルエンジニアリング株式会社

事例紹介

分析・予測支援サービス 導入事例 「学校法人 産業医科大学」

産業医学分野の基礎研究に分析・予測支援サービスを活用

分析・予測支援サービス 導入事例 「学校法人 産業医科大学」

導入ソリューション:スモールデータから始められる将来予測「分析・予測支援サービス」

産業医科大学(北九州市)の藤木教授および中田教授の研究チームでは、「快適な労働環境とそこで働く労働者の健康維持・増進の実現のためのデータサイエンス技術の応用」をテーマとした実証研究を行っている。産業医科大学は、(公財)北九州産業学術推進機構が実施する科学技術振興機構「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム」のFS(※1)事業に参加しており、この研究の中心となる検証では、センサを介して取得した大量の生体データなどをデータサイエンス技術を応用して分析しようとする試みが進められている。
※1 FSとは、フィージビリティスタディの略で、プロジェクトの実現可能性を事前に調査・検討すること。

課題

機械学習などのデータサイエンス技術を用いて、外乱を与えたマウスの変化の検出が可能かどうかの実証が必要だった

解決

スモールデータから開始できるので大規模なビッグデータプラットフォームの整備や構築を行うことなく、すぐに分析・予測が開始できた

システム全体を可視化して改ざん検知、情報漏えい、標的型攻撃対策を強力にサポート Tripwire Enterprise

これまでの取り組み

なぜこのようなテーマで実証研究を行おうと考えたのだろうか?

藤木教授は次のように語る。
「産業医という立場から、企業全体としてプレゼンティーイズムなどによる無駄の削減が、効率の良い生産・経営の実現につながる。すなわち従業員の健康度が健康経営につながるということと、このような取り組みによってコストやリスクを低減し、超低炭素社会に大きく貢献できると考えたのです。」プレゼンティーイズム(疾病就業)とは、なんらかの疾患や症状を抱えながら出勤し、出勤してはいるものの本来発揮されるべきパフォーマンス(職務遂行能力や生産性)が低下している状態を指す。能率の低下によって失われた生産性を「プレゼンティーイズム・コスト」という。米国の研究ではプレゼンティーイズムによる損失は欠勤・遅刻などによる損失をはるかに上回ると報告されている。
藤木教授および中田教授をはじめとする研究チームは先に挙げた「快適な労働環境とそこで働く労働者の健康維持・増進の実現のためのデータサイエンス技術の応用」のために必要となる要素として次の4点を重要なポイントと考えた。

  1. 職域で労働者の生体データや職場環境のデータを様々なセンサを介して、分あるいは秒単位でビッグデータとして取り込み保存する技術
  2. 職域の定期健康診断結果、種々のアンケートやストレスチェックの結果、あるいは不良率や生産性に関わる様々なデータから個人情報を連結可能匿名化したデータとして取り込む技術
  3. 上記2で得られたデータから高ストレス群などの関心対象を選び出し、上記1で取得したビッグデータの中から、そういった群に特徴的な変化をデータサイエンスの技術を用いて抽出する技術
  4. 上記3の技術をさらに発展させ、センシングデータの変化から予防的措置を取るべき対象を予測する技術

これらの4つの技術を実現するために必要なことを明らかにするため、上記2の実証テーマとして中田教授の研究チームが「労働現場でのアンケートデータ等取得システムの開発」を、上記3の実証テーマとして藤木教授の研究チームが「生体時系列データに対するデータサイエンス技術の有効性の検討」を進めることになったのである。

導入の経緯

まず、上記2の「個人情報を連結可能匿名化したデータとして取り込む技術」の実現について中田教授は「簡単かつセキュアなシステムの構築が必要である。」と述べた。
「例えば、タブレットなどを用いてアンケートを実施し、その結果を企業内のローカルネットワークに保存し、二次利用できるシステムを考えています。従業員の方々にアンケートに参加協力して貰うことは様々なハードルがあります。まず、従業員の方がなるべく参加しやすく、時間も取られないようなアンケート記入方式であること。企業のセキュリティの観点から、外部のネットワークから遮断されたローカルなシステムであること。研究倫理及び個人情報保護の観点から、データを社外に持ち出す際には少なくとも連結可能匿名化の処理を行う必要があることなどが挙げられます。」と語る。
連結可能匿名化とはオリジナルのデータから個人が識別できる情報を取り除くときに、新たにID等を付与し、その個人とIDの対応表を残しておくことで、必要な時に個人を識別可能とする手段である。つまり個人を特定できない状態にした上で、収集したアンケート結果を広く研究に使うという計画だ。

次に上記3の「データサイエンスの技術を用いて抽出する技術」の実現について藤木教授は「労働者や職場環境から収集したセンシングデータを用いる実証研究を行うわけですが、その前段として差が明らかに出やすい動物実験による実証を行います。」

パターンマイニング凡例

パターンマイニングによる分析例■パターンマイニングによる分析例

「マウスに対して外乱(※2)を与え、平常時と外乱を加えた時の活動量や体温の時系列データを取得し、外乱を与えたマウスに特徴的な変化を、機械学習などのデータサイエンス技術を用いて検出可能かどうかの実証を行っています。この技術は今回の実証研究の要であり、この技術を今後、生体時系列データなどに応用する際の基礎的なノウハウを得るという意味でも重要であると考えています。」と語った。
このデータサイエンス技術に東芝情報システムが提供する分析・予測支援サービスが活用されている。このように中枢となる検証に分析・予測支援サービスが利用されることになった背景として、本研究における上位機関にあたる公益財団法人 北九州産業学術推進機構(FAIS)の紹介があったという。
東芝情報システムは当初、眠気検知に関連する技術をFAISに紹介していたが、生体データの分析には機械学習を使いたいとの要請があり、分析・予測支援サービスを紹介した。分析・予測支援サービスは、プラットフォームや機械学習エンジンを各種取り揃えており、予測精度を高めるための導入プロセスも確立している。スモールデータから開始できるので大規模なビッグデータプラットフォームの整備や構築を行うことなく、すぐに分析・予測が開始できるため、活用に至ったと言うわけだ。

※2 外から加わる不要な作用、妨害

導入の効果

手元にあるスモールデータから特徴的な変化を捉えた

現在は様々な分析手法を試行しながら、実験結果の予測精度を高めている。ビッグデータの準備が必要ないので、手元にあるデータから、すぐに検証が開始できた。
それだけではなく、クラスタリング、パターンマイニング、さらにはカオス尺度による解析など、様々なアプローチで多角的に分析を進めており、実証研究の基礎技術の確立に繋がっている。さらに少量のデータによる解析により、特徴的な変化を導き出すことができた。

クラスタリングによる分析例■クラスタリングによる分析例
※これらのグラフは動物実験のデータです。

本研究は、(公財)北九州産業学術推進機構が実施する「国立研究開発法人 科学技術振興機構 研究成果展開事業 世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム」FS事業における成果です。

今後の活用

健康被害の予防、さらに健康経営への発展に向けて

本研究を進めることにより、次のような成果が期待できるという。
「少量の生体データの解析を機械学習にかけることによって、外乱を与えたマウスが平常時と異なる傾向になることを捉えることができました。今後、ウェアラブルセンサの普及により、人の生体データはビッグデータになると予想されます。今回の検証を応用して、ビッグデータに潜む人の目では検出できないようなストレス負荷、生活習慣が及ぼす健康への影響など、健康面での問題点をデータサイエンス技術によって見つけ出せる可能性があると期待しています。」
「また、今回の検証では分析までの実施となりますが、将来的にはアンケートやストレスチェックと合わせて予測技術を用いることによって、今までできなかった異常の検知を実現し、最終的には健康被害の予防、さらには健康経営に発展させることができると考えています。」(藤木教授)と述べ、今後も機械学習を用いた分析・予測支援サービスにも注目をしていきたいと語った。

産業保健学部 産業・地域看護学 大学院医学研究科 産業衛生学専攻 産業保健疫学領域 医学博士 教授 中田 光紀氏 産業保健学部 産業・地域看護学
大学院医学研究科 産業衛生学専攻
産業保健疫学領域
医学博士 教授 中田光紀 氏

スモールデータから始められる将来予測「分析・予測支援サービス」

すでにあるデータ(スモールデータ)を用いて当社で分析を行います。分析した結果をお客様にフィードバックし、ディスカッション及び見直しを行い再度分析を行います。このサイクルを繰り返して予測精度を高めていきます。お客様による分析環境の準備や分析ノウハウを必要としない「スモールスタート」で、お客様に最適なデータ分析の進め方・活用方法をご提案します。
コンサルティングを含むきめ細かな「スモールスタート」による導入サービスと、機械学習手法における当社保有の独自予測技術(特許出願中)、さらには稼働後も予測モデルを陳腐化させない運用サポートをサービスメニューとしてご提供することにより、導入から保守サービスまでワンストップで実現します。

分析・予測支援サービス導入プロセス

法人情報

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法人名 学校法人 産業医科大学
創立 1978年(昭和53年)1月
代表者
産業医科大学
理事長 生田 正之
学長  尾辻 豊
本部 福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1
学生数 約1,140名
教職員数 約2,100名
学部 医学部/産業保健部
研究学科 大学院医学研究科
導入プロダクト

*本記事は2016年9月に取材した内容をもとに構成しています。記事内における組織名、役職などは取材時のものです。

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