東芝デジタルエンジニアリング株式会社

ニュースリリース

物流を支える段ボールの生産工程を進化計算AIによりDX化

2024年12月18日

国立大学法人 電気通信大学
東芝デジタルエンジニアリング株式会社

国立大学法人電気通信大学(所在地:東京都調布市、学長:田野俊一、以下「電通大」)と東芝デジタルエンジニアリング株式会社(所在地:神奈川県川崎市、代表取締役:三橋和夫)は、電通大大学院情報理工学研究科情報学専攻(兼)人工知能先端研究センターの佐藤寛之教授が専門とするAI分野における「進化計算」を段ボールの生産計画の最適化に適用し、効率的に段ボールを製造するためのコストと、製造条件を満たさず製造できない段ボール(以下、「落穂」)の数の両方を最小化する生産工程DXのさらなる促進を実現しましたので報告します。

1.背景

社会システムの進化により、食料品・日用品から精密機器など、多種多様な製品や商品などを梱包する段ボールの重要性がますます高まっており、強度と緩衝性が求められる段ボールの製造においては、生産コストの削減や資源の有効活用が強く求められています。また、多様な段ボールを生産する現場の熟練者の高齢化等に伴い、生産計画を策定する技術やスキルの承継も大きな課題となりつつあります。

東芝デジタルエンジニアリング株式会社では、段ボール製造業向けに総合基幹システム「CoPaTis®(コパティス)」を開発・販売しており、同システムの生産計画によるDX化のさらなる促進に向けて、電通大大学院情報理工学研究科情報学専攻の佐藤寛之教授が専門とする「進化計算」に着目し、段ボールの生産計画の多目的最適化に関する共同研究を実施しました。

2.段ボールの生産工程における課題と取り組み

段ボールは、内層の波状の紙と外層の平らな紙を貼り合わせたものを基本構造とし、梱包する製品や商品の特性に合致した強度と緩衝性を有する特性が求められます。受注した各段ボールには強度などの仕様があり、仕様に準ずる原紙を使用します。段ボールの受注は少量多品種であるため、ひとつの原紙で多品種をまとめて製造するのが効率的です。ただし、まとめて多品種を製造する原紙は、すべての品種の段ボールに求められた仕様を満足する必要があります。ここで生じる原紙の格上げなどが、製造を効率化するための「コスト」になります。また、多品種をまとめても、段ボールに加工される原紙がある長さ未満なら、それらは製造できないという条件があります。これによって製造できない段ボールが「落穂」になります。コストを抑制すれば、多品種をまとめて製造することに限界が生じるため、落穂が増えます。落穂を減らそうとすると、原紙の格上げは避けられずコストが増えます。このように、コストと落穂は、トレードオフです。これまでは熟練者の経験と知恵に基づき、コストと落穂の数の両方を最小化する生産計画の策定を行ってきましたが、熟練者の高齢化や若手人材の不足などにより、技術やノウハウの承継が事業を継続する上での大きな課題となっていました。

一方、電通大の佐藤寛之教授の研究室では、遺伝子交配のように、優秀な解同士の掛け合わせを繰り返すことで、より良い解を求めることができる「進化計算」の研究をしています。この手法を利用することで、段ボールの生産計画においてトレードオフの関係にあるコストと落穂の数を削減することが期待されます。

3.段ボールの生産工程における進化計算の内容と成果

前述の課題を解決するための進化計算による多目的最適化のイメージを図1に示します。今回の共同研究において、進化計算は、各生産計画を生き物のように扱って、進化させます。具体的には、赤色の親となる生産計画と、青色の親となる生産計画に適用し、緑色の子となる生産計画を生成することを繰り返します。

大規模な段ボール工場(一日当たりの注文書数が1,000件を超える生産計画のパターンが極めて膨大な工場)を想定した模擬実験の結果を図2に示します。5種類の方法で試行した進化計算は、すべて熟練者の生産計画より優れた結果を示しており、特に、赤で示した手法(NSGA-II)では、熟練者に対して落穂を約半分に抑制するだけでなく、より低コストな生産計画を自動的に生成することができました。これにより、日々の生産計画の立案において属人化の解消およびコストと落穂の削減が期待されます。

進化計算による多目的最適化のイメージ
図1
大規模な段ボール工場を想定した模擬実験の結果
図2

4.今後の展望

今後は、上記の共同研究の結果を段ボールを生産する実際の工程に適用し、熟練者による段ボールの生産計画と「進化計算」による生産計画を比較・検証することで、実運用時の効果を明確化する予定です。

「進化計算」を段ボールの生産工程に適用することで、業務の生産性を上げるとともに、生産工程における電力や原紙の使用量を削減することにつながるため、物流を含む産業界におけるSDGsに貢献する役割が期待されます。

本件に関するお問い合わせ先

電気通信大学 総務企画課広報係

TEL:042-443-5019
Email:kouhou-k@office.uec.ac.jp

東芝デジタルエンジニアリング株式会社
生産技術統括部 技術推進担当
Email:tden-gisui-info@ml.toshiba.co.jp